3.ヒトの管理とリーダーシップ

顧客を創造したら、次にその顧客を満足させるサービスを生み出すための機能が必要になります。サービスを生み出すために必要なものは、ヒト・モノ・カネ・情報だといわれますが、形のない「看護」という価値(顧客を満足させるサービス)を提供する看護師さんの現場では、ヒトが要になりますね。では次に、その大切な「ヒト」を活かすためのマネジメントを考えてみましょう。

人こそ最大の資産
(エッセンシャル版p.81)

戦略思考を持つ

ドラッガーは、個人が持つ知識を使って、成果、すなわち価値を提供する人たちを知識労働者と呼んでいます。人間を対象にする看護師さんの仕事は、決められた手順で誰にでも同じサービスを提供するような仕事ではありません。仮に手順があるような対応でも、看護の専門的な知識を使って対象者の状態やその場の状況に応じて考えながら臨機応変にサービスを提供されていることだと思います。そんな風に専門的知識を使って働く看護師さんたちを、私は知識労働者だと考えています。付加価値を生むのは病院ではなくそこで働く人たちです。そうすると、その知識労働者を活かす方法を戦略的に考えることが顧客満足につながる最大のポイントとなります。
看護師のマネージャーであるみなさんが顧客を満足させるためには、知識労働者が組織の中で高いアウトプットができるように考えることが必要です。そう考えると、マネージャーのみなさんにとっては、スタッフも顧客ということになります。スタッフの持つニーズを見つけるだけではなく、スタッフ自身も気づかない潜在的ニーズを生み出すことが、マネージャーに課された課題のひとつ。そしてどうすればそのニーズを満たせるかを戦略的に考えて意思決定し、行動して成果をあげることが必要です。

生産性の向上

生産性の向上こそマネジメントにとって重要な仕事のひとつだとドラッガーはいいます。そして生産性向上のためには、3つの生産要因をバランス良く保つ必要があると説いています。3つの生産要因とは、土地や建物などの物的資源、労働資源すなわち人材、資本=明日のための資金をいいますが、特に良質の人材と資金を引き寄せることができなければ企業は永続できないとドラッガーは述べています。特に病院の場合、質の高い看護師という人材は重要な資源になり、優秀な看護師確保と看護師を活性化させるための手段は重要です。
ドラッガーは、3つの生産要因に追加すべき、生産性に影響を与える要因として次の6つを指摘しています。

  1. 知識・・・正しく使用したとき、もっとも生産的な資源となる
  2. 時間・・・時間はもっとも消えやすい資源。フルに使った時とそうでないときには、生産性に大きな差が生まれる
  3. 製品の組み合わせ(プロダクト・ミックス)・・・資源の組み合わせでもある
  4. プロセスの組み合わせ(プロセス・ミックス)・・・自分たちで実施するか外部力を活用するか、生産性の高い方を選ぶ
  5. 自らの強み・・・いかなるマネジメントも万能ではなく、特有の限界をわきまえることも生産性を左右する
  6. 組織構造の適切さ、および活動間のバランス

マネジメントではこれらを有効活用して生産性の向上を図ります。

成果を中心に考える

生産性を考えるときには、成果すなわちアウトプットを中心に考えることをドラッガーは強調しています。技能や知識をいかに提供するか?と考えるのではなく、目標とする成果の達成に向かって、その道具をいかに使うかを考えることが重要です。つまり、組織が成果をあげるために、人材の技能や知識を最大限活かす戦略を立案して実行するのがマネージャーの役割です。
知識を使って労働をする人々を知識労働者とドラッガーは呼び、彼らの特性は、自分の知識が活かせる組織に自由に移動すると指摘します。つまり、知識労働者は自分の能力が発揮できない組織には留まらず、自由に移動するというのです。だから知識労働者を組織化し、個人が持つ能力を結集して高いアウトプットにつなげられるマネジメントがなければ、人財という労働資源自体を喪失するという結果になります。
ドラッガーは、専門知識を必要としながらも、肉体を使って仕事をする時間が長い人を知識技術者(ナレッジ・テクノロジー)と呼んでいます。私は看護師さん全てを知的労働者と捉えていますが、看護師のチームの中で、マネジメントを司る人たちを知識労働者、そして現場で直接看護を提供するスタッフの方々は知識技術者かもしれません。どちらにせよ、マネージャーがマネジメントの知識を活用し、スタッフが看護の知識と技術を活用してチームで高いアウトプットを出すのがチームナーシング。そう考えると、マネージャーとスタッフの役割は違うので、スタッフからマネージャーになった時には視野や視座を変更して仕事をする必要があるでしょう。

生産性を高める組織

ドラッガーは、組織には3つの形があると述べています。

  1. 野球型チーム
    メンバーはチームに属してプレーしますが、ポジションは固定されています。個人が自己の能力を高め、個別的に評価して、目標と責任をもたせることができるとともに、個人の強みを最大限伸ばすことが可能です。しかし、他のメンバーとの協調性を保ちにくく、柔軟性の弱い組織になります。
  2. サッカー型チーム(オーケストラ型チーム)
    メンバーは固定したポジションをもちますが、一体化したチームとして働きます。監督や指揮者が全体を統制してチームで最大限の力の発揮を目指します。高い柔軟性と迅速な対応が可能ですが、そのためには監督が指示する戦術や楽譜が必要となります。
  3. テニスのダブルス型チーム
    少人数のチームがこれです。一応のポジションがありますが、柔軟に対応して互いの領域をカバーし合い、強みと弱みを調整し合うことで、メンバーの総計を超えた成果を発揮します。しかしチームが機能するようになるには、時間をかけて訓練を積み、共に働く必要があります。

病院という組織の中で、医師は野球型が好ましいのかもしれません。そしてその医師と上手に協働するために、看護のマネージャーが監督になり、サッカー型の看護師チームが病院(病棟)をまとめていく必要があるのではないでしょうか。また、夜勤帯に限っては、テニスのダブルス型チームを目指すことが重要でしょう。

個人を活かし組織を活性化

チームの中でそれぞれが力を発揮するためには、それぞれが何を目指して行動するのかを示す道標が必要です。その道標に従ってプレーヤーであるスタッフが力を発揮する戦術を考える監督はマネージャー。しかしプレーヤーは毎日試合をしているわけではありません。チームで力を発揮するために、その前提として各自が能力を高めるトレーニングも重要です。そして監督は、プレーヤーが自主的にトレーニングに励める環境づくりにも力を注ぎます。
私たちは看護師さんの職場の中で自主的にトレーニングに励むための環境として、次の3点が重要だと考えています。
①知り合う
②学び合う
③協力し合う
例えばサッカーの試合を行うときに、同じチームのメンバーがどんな特徴や能力をもっているかを知らなければ、どんな時にそのメンバーに頼ればいいか、どこは自分が中心になってプレーをすればいいかがわかりません。監督だけが知っていても、臨機応変に対応しなければいけない試合中に、いちいち監督に聞きに行くなんてありえませんね。
看護の仕事もチームプレー。だから互いがどんな選手なのかを知り、協力し合えなければ勝ち試合は望めません。そして、トレーニングの段階では、互いの持つ知識や技術を他人に示し合い、学び合って互いに能力を向上することが重要です。だからマネージャーのみなさんは、チーム内のコミュニケーションを良好にして互いを知り合い、学び合える仕掛けをお考えください。「広告が規制されている」といいながら、看護師採用のための看護師紹介はフリーです。たとえば看護師紹介のWEBや冊子を作ることで、院内の看護師さんが知り合える機会にもなり、採用ツールにも使えて一石二鳥ですね。

マネージャーを見分ける基準は命令する権限ではない。貢献する責任である
(エッセンシャル版p.125)

プレーヤーの意識を捨てる

専門職の人たちが、専門的知識を駆使して職務経験を重ねた後にマネージャーになった場合、いつまでも専門知識を使ってメンバーと張り合った仕事をしてしまいがちです。しかしマネージャーとプレーヤーに必要な知識や能力は異なるため、プレーヤーとしての自分を一度リセットして職務にあたる意識が必要ではないでしょうか。看護師としての専門知識や技術を用いた職務はメンバーに任せ、メンバーが力を発揮してチームが成果をあげる戦略を考え、行動して組織に貢献することに専念しましょう。
ドラッガーは、マネージャーを組織の成果に責任を持つ者と規定し、人の仕事に責任を持つボスであってはいけないと説いています。マネージャーはスタッフの生産性を高めるための戦略を考えるのが仕事。スタッフの顕在的なニーズと共に潜在的なニーズも捉え、それを満たして満足感を高める戦略を立案しなければなりません。マネージャーにとってはある意味顧客であるスタッフですが、顧客の視点で満足感を与える仕組みを考える上では看護師経験は役に立ちます。しかしそれよりも、スタッフが提供する看護の知識や技術の面については極端な話、ご自身は素人に戻ったくらいの気持ちでマネジメントに取り組んでいただくのがちょうどいいかもしれません。

時間を有効に使う

マネージャーにとっては時間の管理も重要です。マネージャー自身の時間も上手に使わなければ、無駄に時間を浪費しては成果につなげる行動はできません。ドラッガーは、時間マネジメントの3つのステップを示しています。

  1. 時間を記録・・・時間の使い方を記録して分析
  2. 管理・・・活動を分類する
  3. まとめる・・・無駄を省いてまとまった時間を確保する

まずはご自身の時間の使い方をメモします。一日の時間の使い方を書き出して分析し、これは自分にしかできない仕事なのかを考えます。他の人でも可能な仕事は委譲したり、無駄な仕事を省いたり、時間の浪費を削ったりして自由な時間を確保します。そして優先順位の高い仕事に充てることを考えます。
優先順位の高い仕事を考えるときには、今、最も重要な仕事は何かを考えます。重要な仕事をするために行う行動をリストアップし、優先順位をつけて行動しましょう。その優先順位を考えるときに、ドラッカーは次の4つの基準で考えることを説いています。

  1. 過去でなく未来を選ぶ
  2. 問題ではなく機会に焦点を合わせる
  3. 横並びではなく独自に方向を決める
  4. 変革をもたらすものに焦点を合わせる

すなわち、マネージャーは、現状への対応もさることながら、未来に向かって新たな改革に伴う仕事を重要視せよということです。

真摯さが最も大切

ドラッガーは、マネージャーに最も重要な資質は真摯さだといいます。これは学んで身につけられるものではない、マネージャーになる人の絶対条件だと繰り返し説いています。
ここでいう真摯な人とは、成果に対して誠実に向き合い、自分にも他人にも、いつも感情ではなく成果という指標でのみ判断し、行動するというような、まじめで熱心な対応を意味すると考えます。
顧客に対しても真摯な態度で向き合うことは重要です。顧客の満足に注目し、成果に向かって真摯に行動して責任を果たすのがマネージャーです。
少し余談になりますが、7対1の看護基準をとっている病院(病棟)に入院した場合、その他の基準の病院よりも請求額が高くなります。果たしてみなさんはそれを患者にどのように説明されているでしょう?7対1である理由、だから他とは異なるどんな質の看護を提供するのか、それを具体的に説明する責任を果たすこともまた、顧客に対する真摯さではないでしょうか。

リスクを伴う意思決定

マネージャーは戦略を立てる際、全てを一度白紙に戻すという姿勢で思考することが必要です。これまで当たり前に行なってきたことをやめるというのは勇気が要ります。しかし、新しいサービスを取り入れようとするならば、不要なものを捨てなければどんどん煩雑になるばかり。新しいことを考えるときには、必ず捨てるということも同時に考える必要があります。これまで頑張ってやって来たということで、いつまでも成果の出ないサービスを提供するよりも、早くやめて新たなサービスに転向することが、顧客に対する誠意であり、プロとしての責任です。
「なぜこのサービスをするのか→具体的にどうするのか→いつするのか→何をいつやめるのか→どのようにやめるのか」というプロセスでマネージャーは意思決定していく必要があります。これをドラッガーは「リスクを伴う意思決定」という言葉で説明しています。   
そして次にマネージャーは、体系的な組織づくりとして、誰が、いつ、どこで、何を、どうするかを考えて、人財を割り当て実行します。次に実行した結果を検証し、不都合があれば修正しながらP(プラン)D(実行)C(チェック)A(修正)サイクルを回していきます。実行する上で必要なのは、チームの目標を設定し、その目標達成にむけて人材が個人の目標を持って自律して行動すること。目標を使って生産性を高める方法を考えることが必要です。

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