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1つの問題解決のために、いくつの解決方法を考え出せるか

問題解決は「1か0」の2極で判断しない

利用者さんからのクレーム、スタッフ間や医師とのトラブルやもめごとなど管理者にはつねにいろんな問題と対峙しなければなりません。スタッフの労働環境、日常に起きるインシデント・アクシデント、倫理的な問題などその範囲は多岐にわたります。この問題を解決するには多角的なものの見方、考え方を通して問題の本質を見極めることが大切です。

問題解決に対しては現場の問題を抽出して、優先順位をつけて解決に着手することになりますが、私の経験からいうと、一つの問題に対して複数の解決方法を考え出すことが必要です。

もし管理者が多角的なものの見方や考え方ができないと、たとえばスタッフの発言に同調してしまい「スタッフが正しい」または「スタッフが間違っている」という「1か0」もしくは「イエスかノー」の二極で物事を判断してしまうことになります。

しかし1と0の間には多くの答えが存在します。その答えをいかに多く見出していけるかが管理者には求められます。

 

「複数の解決方法」を考える習慣をつける

多角的な視点や考え方を身に付けるには「一つの問題に対して複数の問題解決方法を考える「訓練」をするのが有効です。

たとえば「職場全体で超過勤務が続いてスタッフがいて疲弊しています。どのような解決方法が考えられますか」に対していくつかの答えを出してみてください。

  • もっとも残業の多いスタッフに残業をやめさせてひとまずは休ませる。
  • 「残業しないようにしよう」「定時に帰ろう」とスタッフに声をかける。
  • 何が原因で超過勤務が起こっているのかを分析する など

この訓練は、ふだん身近にある問題を題材に取り上げることや日々のスタッフとの雑談の中でも行うことができます。

なぜ複数を考える必要があるのでしょうか。それは一つの解決法しか考えていないと、もしもその方法がうまくいかない場合は解決手段を失うということになってしまうからです。そうなると解決に時間がかかり、ほかの日常業務に支障が出るかもしれません。

いくつかの解決方法が出たら、次にどれを採用するかを考えます。私が看護管理者だったときは、考え出した解決方法の中から「最小のリスクで解決に導き出せる方法」を選択するようにしていました。

たとえば利用者さんとスタッフとのトラブルがあったときに

  • 利用者とスタッフと3人で話し合う
  • 利用者とスタッフと別々に話を聞く
  • 利用者とスタッフのほかに両者を知る第三者から話を聞き対策を考える

……など、方法はいろいろあります。これらの中で利用者へのサービスが滞ることなく、トラブルが再発する可能性がいちばん低い方法はどれかと考え判断していくのです。

 

もう一つ、数々持ち込まれる問題に対して「正規分布で考える」という分類の仕方もあります。解決すべき問題がどれくらいの規模で重要であるかをはかるために正規分布を使うのです。その問題はその利用者やスタッフだけに起こる問題なのか、一部の利用者やスタッフに起こるのか、はたまたステーション全体に関わる問題なのか。こうしてこの問題が組織全体を俯瞰してどれくらいに影響するのかを考えることによって対策案が見えてきます。多くの利用者、スタッフが関わるようなことであれば、のちのち大きな問題に発展する可能性がありますし、少数に関わるようなことであれば個別の対応をするのが良い場合もあります。

しかし、いくらこのように慎重に考えても解決に糸口が見えないときは、もう一度解決方法を選ぶところに戻って別の方法を考えましょう。そんなことはいくらでもあるのです。管理者の仕事は試行錯誤の連続です。失敗して、また試して、を繰り返すなかで解決方法が見えてくるのです。時間と手間を惜しまないことです。やまない雨はありません。

 

スタッフの反応を見極めながら問題解決のタイミングをはかるには日ごろからの人付き合いも大事

問題が起これば一刻も早く解決したいところですが、性急に解決を急ぐと往々にして失敗につながることもあります。

とくに自分がみずから動くのではなく、スタッフに行動してもらうときは依頼の方法もいくつか考えることをお勧めします。めんどうくさいように思うかもしれませんが、「急がば回れ」という言葉もあります。

問題解決の原点は事実をきちんと詳細にわたって知ることです。これができれば7割解決していると言っても過言ではありません。

そしてそれがなぜ起きたかを究明してから解決に着手するのですが、ここで自分以外の人に依頼する場合はその人選やタイミングにも気を配ります。考えてもみてください。問題解決の仕事を依頼されて喜んで引き受けてくれる人なんてそうはいません。ですから依頼するときはまずは何気ない会話のなかで解決したい問題の話題に触れながらさりげなく相手の反応を見ます。そして不快感を与えないように依頼するタイミングをはかるのです。相手の反応を見きわめてから依頼しても遅くはありません。

問題解決のために行動する場合は最初から自分の考えを表明しないほうがよいこともあります。会議などで問題解決をはかるときには、最終的に問題解決してもらう責任者に「そうしましょう」と言わせることが組織内で物事を動かす最大のポイントです。

たとえば新たに予算を獲得が必要な場合でも、最初から「〇〇の予算がほしいです」とは言わないのです。その予算が必要になった背景を話題に出します。もしその話題に興味を持っている人がいたら、その人にも意見を求め予算獲得に有利に進むよう会議のムードを誘導していきます。

自分の代わりに決定的な発言力と決定権をもつ人に発言してもらうほうが解決の近道ということもありますが、いつも自己主張ばかりしていると肝心なときに話を聞いてもらえないことがあるからです。

そのためには日ごろから他職種や医療関係者以外の人とも交流して情報を集めておくことも有効です。最初から奥の手を出すと、それが問題解決に対して効果的でない場合は解決に取り組むきっかけも得られない可能性もあります。日ごろからの人付き合いを大切にして、できるだけ問題解決のカードをたくさん持てるようにしておきたいものです。

 

坂本すが:元日本看護協会会長。東京医療保健大学副学長・看護学科長・教授。和歌山県立高等学校保健助産学部卒業。元NTT東日本関東病院看護部長。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。

 

※本連載は「看護師長のためのベーシックスキルBook ナーシングビジネス2023年春季増刊」(メディカ出版)、「わたしがもう一度看護師長をするなら」(医学書院)の内容から抜粋して再編集したものです。