新人には「よく働き、よく遊べ」とけしかける
看護師長をしていたころ、「師長、私、看護師を辞めたいんです」とナースステーションで突然打ち明けられることがたびたびありました。ほかにも「私は仕事が覚えられなくて周囲に迷惑をかけてばかりです」「患者さんからセクハラまがいのことを受けるのがイヤでたまりません」「この職場は人手が足りません。このままでは患者が満足できる看護はできません。病院はこれで良いと思っているのでしょうか」などなど相談を持ちかけられまた。そんな経験はあげだしたらきりがないほどです。
そしてこうしたスタッフの話を聞いて励まし続けてきました。でも最後に行きつく結論はいつも同じでした。
「仕事を一生懸命することは大切。だけど仕事を人生のすべてにしなくてもいい。仕事以外のところではよく遊んでほしい」と。
食事でも「腹八分目」と言います。仕事でも同じで、自分のもつエネルギーの八割くらいで行うほうが余裕をもって長く続けていけるのではないでしょうか。もちろんこれは怠けていいと言っているのではありません。残りの二割で息抜きできる時間をつくっておくのが良いという意味です。
私の時代、和歌山県から東京に出てきたばかりだった20代のころは、新宿や渋谷、銀座などの繁華街はとても新鮮に映りました。休日は同じ和歌山出身の看護師仲間と連れ立って東京散策へ繰り出しました。ほかにもテニスやスキーも楽しみました。
でもただ遊んでいたのではなく、それには理由があります。当時の私は、新人看護師なりに病院の息苦しい雰囲気を感じ取っていて、その原因を取り除くなんて自分だけの力では到底できないことを感じ取っていたからです。
遊ぶ時間も持ちながら、仕事には気持ちを切り替えて気を引き締めて取り組む。こうしたメリハリをつけることができてこそ、プロ意識が養われていきます。このように遊びが、長く看護師として続けていく余裕を生み出すことにつながったと思います。
管理者こそ「仕事とは別の世界を持つ」ことが大事
看護師として経験を積んでも、就業時間内に仕事が終わらずに持ち帰り作業をしたり、週末も仕事のことで頭がいっぱいだとか、仕事漬けの毎日が続いている方もおられるかもしれません。しかし、管理者になったからこそ意識してほしいのは「仕事とは別のもう一つの世界」をもつことです。別の世界は自分の頭も心も空っぽにしてリセットする大切な時間だからです。
あるWEB記事で銀座の接待業の方たちに向けたアンケート結果が載っていました。「どういう人が企業のリーダーとなっていったか?」という質問に対していちばん多かったのが「2つの世界を持つ人」だったそうです。私自身も自分の経験から2つの世界を持つことは管理者にとってはとても大切なことだと思います。
私の看護師人生を振り返っても私を支え続けてくれていたのは、もう一つの世界である「読書」でした。読書をしていると頭から仕事のことを切り離してリセットできることで新たな活力が湧いてきたのです。読書をしているあいだは仕事のことを忘れて本の世界に入り込むことができたからです。
とくにこの「2つの世界」を持つことの重要性を感じたのはNTT東日本関東病院で看護師長に就いていたときです。当時、「病棟の看護の質を向上させるためには経営の知識が必要」と感じており、私は青山学院大学経営学部の二部(夜間)に入学したのです。
日中は病院で働き、夕方からは大学へ。職場を出るときは「スタッフに申し訳ない」と後ろ髪を引かれる思いでした。しかし、いったん病院から最寄りの駅について電車に乗ったときから仕事のことは頭から消え去って大学の勉強だけに集中することができたのです。仕事のほかに集中できる何かを持つことで、脳に余白ができ新しい発想が生まれるからだと思います。同時にそれは心の自浄作用につながります。2つの世界を楽しみコントロールすることは結果として人間性の幅も広げてくれるように思います。
「2つの世界を持つ管理者」は魅力的に映る
認定看護管理者向けの講義で「もう一つの世界」というテーマで話を聞いたとき、その話をする発表者がみんな生き生きとしている姿がとても印象的でした。人として豊かさや余力も伝わってきました。
よく「眠ることで頭をリセットする」という話を聞きます。たしかに眠ることで疲れは軽減できます。しかし頭や気持ちをリセットすることはむずかしいように思います。生活の中にほんのわずかでも良いので何か没頭できるものを見つけることをお勧めします。
「そうしたいとは思うけど、そんな時間はとても忙しくて持つことができない」という声もよく聞きます。しかし認定看護管理者の話を聞くと「もう一つの世界」を持っている人が意外と多いことに驚きます。料理に凝っている、ジムに通っている、楽器を演奏している、フラダンスをしているなどなど。
私もここしばらくで夢中になっているもう一つの世界はハイキングです。コロナ禍の数年間は大勢で行くことはできませんでしたが、そんなときは少人数でハイキングに出かけました。そして植物や昆虫の写真を撮る楽しみが新たに加わりました。
ぜひみなさんも看護とは別に集中できる世界を持ってほしいと思います。
坂本すが:元日本看護協会会長。東京医療保健大学副学長・看護学科長・教授。和歌山県立高等学校保健助産学部卒業。元NTT東日本関東病院看護部長。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。
※本連載は「看護師長のためのベーシックスキルBook ナーシングビジネス2023年春季増刊」(メディカ出版)、「わたしがもう一度看護師長をするなら」(医学書院)の内容から抜粋して再編集したものです。


