山田由香里さん(えみな訪問看護ステーション 看護管理者・経営者)
「あなたは診療所の看護をしているわね」と言われた訪問看護1年目
看護学校の新卒で総合病院に就職。脳外科、救急、クリニック、消化器外科と7年勤務した後に出産して訪問看護に異動。赤ちゃんがいると夜勤ができないからです。訪問看護の世界に入ったのは子育てと正職員を両立させるため「仕方なく」でした。
当時の私にとって訪問看護への異動は正直なところ“飛ばされた”という印象。救急外来など患者の命に直接かかわる職場にいた私にとって、訪問看護は白衣ではなくジャージを着て高い看護技術や医療用語も使うこともない“ちょっとレベルの低い看護”のように思えたのです。自分は看護から取り残されて使い物にならなくなってしまうのではないかと不安にもなりました。
それなのに、訪問看護の現場にいる先輩方はなぜか楽しそうで、いつでも利用者さんのことを考え、寄り添うことばかり考えています。私には「そこまでしていたら仕事に感情が引っ張られてしまう」という危惧がありました。初めての子育てでもあったので「もっと割り切って仕事をしたい」と思っていたのです。
ある日、師長さんから「あなたは診療所の看護をしているわね。まずは1年やってみればいいわ」と言われたのです。カチン!ときました。私はそれまでの経験から他の人よりも看護スキルも高いし、仕事も効率的に進めることができていると自負がありました。それなのになぜそんなことを言われなければいけないのでしょう!「よし、それじゃ1年やって辞めてやる」と思いました。
しかし1年後、私は師長に「私をホンモノの看護師にしてください」と頭を下げるくらいになっていました。それまでの私は効率ばかりを気にして看護ではなく「処理」をしていたのだと気づきました。師長さんたちや利用者さんたちから看護の幅広さ、奥深さを教えてもらったのです。
一言で言えば、訪問看護ほど自由度の高い看護はありません。看護師冥利に尽きる仕事だと気づきました。医師と看護師、介護士と看護師、家族と看護師……そのあいだに垣根がないのです。医療保険と介護保険を両方使えるのも訪問看護だけです。それに気づいてからは訪問看護のおもしろさが一気に広がりました。
「看護の心」を知ってほしいと、自分の経験をエッセイに
勤めていた病院の統合などをきっかけに私は当時急成長を遂げていた全国展開をしている訪問看護ステーションに転職しました。そこで3年目くらいから管理者を任されました。
その後、会社は成長を続けて全国26か所、看護師と理学療法士を合わせて180名ほどを抱える企業となり、私はその取締役執行役員になりました。大卒の若い看護師さんが増え、教育の仕方にもすごく悩んでいた時期がありました。あるとき「アセスメントの資料をください」と言われてハッとしました。私たちの時代は、まず“感じる”ことから始まって、気持ちがあふれて頭が追いつかないくらいの看護をしていました。でも今は情報を整理して、マニュアルやハウツーを上手に使いこなす看護に変わってきている。「あぁ、時代が変わったんだな」と感じた瞬間でした。熱さだけでは伝わらない。だからこそ“心を育てる看護教育”が必要だと思いました。
そのとき、子育ての合間に絵本を読み聞かせていたことを思い出しました。「看護にも、やさしく心に届く物語があっていい」と思いエッセイを書き始めました。1回1200文字を15回書きました。それを気になるスタッフに送って読んでもらいました。遠く離れたスタッフたちに看護を直接伝える機会はありませんでしたが、エッセイを通して本人たちに「看護の心」に気がついてもらえればと思ったのです(そのうちの11回分を後に、Kindleで出版しました※)。情報の時代だから心を大事に育てたかったからです。今でも当時のスタッフとは交流があります。管理者のおもしろさはこのように人を育てることにもあると思います。
訪問看護を続けていくには日々、微調整を重ねていくことが大事
その訪問看護ステーションで14年働いて、やれることは一通りやりました。そこで2025年1月から現在の「えみな訪問看護ステーション」を立ち上げました。臨時スタッフも入れてスタッフは5名です。大きな組織になるとルールを決めてすべてのステーションでサービスを均一にしなければなりません。小さい組織でやりたいことをなんでもやってみようと思ったのです。
うちのキャッチフレーズは「看護×〇〇」。〇〇には「生活」とか「子育て」といろんな言葉が入ります。暮らしや人生に密着しているのが訪問看護だからどんなこともできるという思いを込めています。
利用者さんも私たちも、ライフステージによって価値観も優先順位も変わります。そのなかで訪問看護を続けていくためには日々少しずつ微調整を重ねていくことが必要です。変化を前提にスタッフとも利用者さんともかかわるようにしています。
私自身、地域の一市民として世の中に役立つことをやってみたい。やるべきことをやり続けたら絶対に幸せになれると思っているからです。趣味というか、天職なのかもしれません。そのためにも小さな組織のほうがいい。大きな組織だと整合性が取れなくなります。
今やりたいのはグループホームとか障害児支援など。とくに障害児のお母さんや援助者の支援ですね。まだ制度などない分野ですから今は収入にはならないです。でも誰かがやないといけないと思うからやるんです。将来への投資みたいなものです。いつか訪問看護につながってくれればいいなと思っています。
私はこれまで営業とか求人募集とかしたことないんですよ。いろんな人と巡り合ってそれが利用者さんになったりスタッフになったりしています。これからも無理をせずに心地よく続けられる形をスタッフと「つねに」いっしょに見つけていけたらと思っています。
★コラム「うちの施設自慢」★
うちの自慢は“人柄”です。スタッフはみんな大人で、自立している人ばかり。だから話が早くて、余計な気をつかわなくていいんです。それぞれが自分のペースで動ける“気楽さ”があるのも、えみなのいいところ。お互いに尊重しながら、ゆるしあえるチームです。
※出版されたエッセイ「やっぱり看護師が好き: うつを乗り越え私らしく生きる」はこちらよりご覧いただけます


