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内省する力を鍛える

自分の経験を「内省」して概念化することが大切

管理者として鍛えていくべきことに「内省」があります。日々の出来事の中で自分が「気になること」があると思いますが、内省とは「なぜそのことが気になるのか」を深掘りしていくことです。
たとえば日常では、利用者さんからのクレーム対応やスタッフ間のトラブル仲裁などは日常茶飯事かもしれません。それに対峙していると日々はあっという間に過ぎていきますよね。このときこそ「内省」のチャンスです。

人材育成の領域で「70:20:10の法則」といったものがあるのをご存じですか?
アメリカのリーダーシップ研究機関、ロミンガー社がさまざまな経営者に「リーダーとして成長するために有効だった要素」を調査したところ、
70%「実際の仕事経験」
20%「他者との社会的かかわり」
10%「公的な学習機会(座学)」
という結果が出たそうです。これを見れば経営者の能力向上にいちばん影響を与えているのは70%の「実際の仕事経験」であることは一目瞭然です。

しかし、それは毎日の仕事をこなしていれば自然と能力が向上するということではありません。
大切なのは日々の経験を力に変えていくことです。つまり経験したことを「内省」して概念化して次の仕事に役立たせていくことです。

忙しくて「自分らしくない」と疲れたときこそ、立ち止まろう
忙しい毎日のなかで目の前に起こる問題に立ち向かうことに精いっぱいで、何も考えることなく過ごしてはいませんか。調和をはかるために誰かの意向に流されてしまうとか、自分らしくないキャラクターを演じて周囲を盛り上げようとしながら自分自身が疲れてしまうということはありませんか。

そういうときもいったん立ち止まってください。そして内省しましょう。

内省とは、もう一人の自分と対話しながら身の回りに起こった事象を深掘りしていくということです。深掘りしながら考えるというのは、そのできごとを事実だけで終わらせず、そのことについて「それに対して自分は何を感じたか」「なぜそのようなことをしたのか」などを考えて、そのできごとに「どんな意味があったのか」までを考えることです。
たとえば何かの出来事を乗り越えたときに「あぁ、やっと終わった」「たいへんだったけど解決して良かった」だけで終わりにするのではなく、ここから深掘りするのです。
「なぜあのようなことが起こったのか」「なぜ患者さんやスタッフはあのような言動をしたのか」「自分のとった言動の意味はなんだったのか」と振り返ってみましょう。
そして「もしかしたらあのとき患者さんが訴えたかったのはこういうことではなかったのか」「もしかしたら自分の言動がその後のスタッフの行動に影響を与えたのではないか」と仮説を立てて考えてみます。

このように深掘りして考える癖をつけていくと「あれはこういうことだったんだ」とものごとの本質に近づいていくことができるのです。
一つの出来事には表面上に見えることだけでなくその裏側に複雑な事情が隠れていることがたくさんあります。その「本質を見る力」を養わずに出来事の表面上だけを見ていると対処を誤ります。経験を通じて「本質を見る力」を養うには内省を重ねることです。

「認識の三段階」で本質を見抜く
そうは言っても身の回りの出来事をすべて振り返ることはできません。まずは「自分が気になったこと」にスポットを当てて内省してみましょう。
たとえば「この利用者さんが受診しているお医者さんはきちんと説明をしていないのではないか」とか「あのスタッフは患者さんにあいさつもしないで採血をしているみたいだ」など、日常業務の中でも気になることはいろいろあるでしょう。なぜそのことが気になるのかを深掘りしていくと「自分が大事にしていること」が見えてきます。「自分が大事にしていること」=「自分の管理スタイル」と言えます。内省することは自分の管理スタイルを発見することにもつながります。

経験を内省して本質を見抜くのに役立つ理論として「認識の三段階」というものがあります。これは、人間はものごとを考えるとき「現象」「表象」「抽象」の三段階のレベルを行き来しているという理論です。

現象(経験):「こんなことがあった」「こんなことを経験した」
表象(内省):「(どうして私はあんなことをしたのか)」「(どういう意味があった?)」
抽象(本質):「じつはこういうことだったんだ」「本質はこれだ」

経験したことに対して内省を繰り返していくと、全体を見る力=俯瞰(ふかん)する力も養われていきます。

深く内省をしていくと、最後には「私たち看護師とは、何をする仕事か」「自分はどのような人生を送りたいのか」というところに行きつきます。忙しい毎日だからこそ、本質的な自分の立ち返る時間をつくることが必要かもしれません。

坂本すが:元日本看護協会会長。東京医療保健大学副学長・看護学科長・教授。和歌山県立高等学校保健助産学部卒業。元NTT東日本関東病院看護部長。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。

※本連載は「看護師長のためのベーシックスキルBook ナーシングビジネス2023年春季増刊」(メディカ出版)、「わたしがもう一度看護師長をするなら」(医学書院)の内容から抜粋して再編集したものです。