「患者の回復と健康」のゴールを支えるのはスタッフ
看護の現場では「患者中心」という言葉がよく使われます。看護が目指すゴールは「患者の回復と健康」でその中心はもちろん患者です。しかしそのゴールに向かって毎日業務を行っているのはだれでしょう?
管理者がいちばんに考える相手はだれか、ここは発想の転換をしてください。
病院の管理者は「患者中心」の下、患者を中心に管理業務を考える傾向があるように思います。でもそうでしょうか。管理者が中心に据えて考えなければならないのは「患者の回復や健康というゴールを達成するために業務を行っている」スタッフです。患者が中心であることは間違いなくとも、看護においてゴール達成するために管理者は「スタッフファースト」で考える必要があります。
スタッフのことをみなさんはどれだけ知っているでしょう。目指すゴールを達成するにはスタッフ全員の持てる力を結集する必要があります。ですから管理者はスタッフそれぞれの長所を見出しながら「どうすればそのスタッフが活躍できるか」を考え支援することが大切です。
スタッフは管理者が思いもつかないような発想や知恵を持っていることがあります。そんな発想や知恵はぜひ借りたいものです。そのためには気軽に「スタッフとおしゃべりすること」をお勧めします。外山滋比古氏はその著書「こうやって考える」(PHP研究所.2021.183p)で「人間は『“おしゃべり”で賢くなり、未知を拓いてきた』のである」と述べています。スタッフとのおしゃべりの中で新しい発想や仕事へのヒント、アイデアがもらえるかもしれません。
管理者は「場をつくる人」と心得よう
私は看護部長時代に、看護師長会とは別に「ワイガヤ会議」というものを開催していました。テーマは設けずになんでもいいからしゃべろうと患者のこと、最近気になっていることなどを自由に話し合う会議です。ルールは一つ、「おしゃべり中は誰も話の内容を否定しないこと」だけです。
最初は参加することを面倒に思っていたメンバーもいたようですが、いったんしゃべりだすと楽しく盛り上がりました。内容もさることながら「仲間で話し合うことによる仲間感」が心地良かったのだと思います。群がること=「集団欲」はたくましく生きるための本能であり、大脳辺縁系から生じると言われています(時実利彦.「人間であること」.岩波書店.1970.70p)。
このようなおしゃべりの時間をつくることは「心理的安全性」を保つ環境をつくることにもなり、新しいものが生み出されていくきっかけにもなりますし、なによりも頭がほぐれ気分転換にもなります。忙しさに追われるだけではなく仕事の中にそのような時間をつくることも大切なことと思います。
「相手のメリットづくり」を意識して適性を見ながら活躍の場をつくる
良い管理者とは自分ひとりで業務をなんでもこなせる人ではありません。もしもそんなことをしていたらスタッフの成長するチャンスを奪っていることになります。スタッフの適性を見ながら適切に配置してチームプレイを指揮できるのがよい管理者です。繰り返しになりますが理想の看護の実践は管理者ではなく看護師=スタッフが主役であるべきです。
がっちりまとまったチームプレイを指揮するのに効果的な方法を紹介しましょう。それは常日ごろからスタッフがあなた(管理者)と付き合ったらメリットがあると思ってもらえることです。正統で悪気のない「相手のメリットづくり」をすることです。
たとえば実力のあるスタッフには外部研修に行かせて昇格試験を受けるように仕向けます。また夜勤をする看護師の負担になっているのであれば長い申し送りは短くします。仕事での悩みがあればいつでもスタッフの相談にのる姿勢を示すなど、日ごろからの応援のスタンスを知ってもらうことです。
それは看護師だけに限りません。多職種連携も今は大きな仕事です。多職種にとってもあなたと付き合うことでメリットが生じてもらえるように配慮したほうがよいでしょう。なにも特別なことをする必要はありません。たとえば
「相手を元気にするために、いつも明るく接するように心掛ける」のようなことでも良いのです。自分のペースで無理なくいろんな人のメリットづくりをすればよいのです。
管理者ひとりの力などたかが知れています。それよりもスタッフのもつ能力を合わせたほうが自分ひとりでやるよりも良いパフォーマンスと結果を出せると思ったほうがうまくいきます。スタッフの能力を見抜き、活躍してもらうのです。
ただ、そのためには「公平さ」が必要です。つい相性のよいスタッフを重用しがちですが、長い目で見ると偏ったスタッフだけではチーム運営はうまくいきません。
医療機関のような公的機関が成果を上げるのは偉大な人物がいることによってではなく、組織の仕組みがきちんと整っていることによって多くの患者、利用者に安定した良い医療サービスを提供できるのです。一部のスタッフに集中して仕事を任せるよりもチームとして全員で仕事ができる体制にすることが「スタッフを主役にする」ことにもなり、将来的にスタッフの誰かが抜けてもチーム体制を維持して仕事への支障を最小限に食い止めることもできます。この体制づくりこそ管理者の力量によるところが大きいのです。
坂本すが:元日本看護協会会長。東京医療保健大学副学長・看護学科長・教授。和歌山県立高等学校保健助産学部卒業。元NTT東日本関東病院看護部長。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。
※本連載は「看護師長のためのベーシックスキルBook ナーシングビジネス2023年春季増刊」(メディカ出版)、「わたしがもう一度看護師長をするなら」(医学書院)の内容から抜粋して再編集したものです。


